一番すばらしい、心の最高の宝を獲得した「心の長者」。
お釈迦さまは、「この世に3とおりの長者があるんだよ」と説かれた。
あなたは、どれになりたいだろうか?
前々回と前回で、1つ目の「家の長者」、2つ目の「身の長者」についてシェアした。
最後にお釈迦さまが教えられたのは、「心の長者」だった。
心に最高の宝を獲るから、「家の長者」、「身の長者」も素晴らしいが、
中でも最も素晴らしいと言われる。
「人間に生まれてよかった、生きてきてよかった、この身になるための人生だったのか」
と生命の歓喜、永遠の魂の喜びを獲た人のことだ。
お釈迦さまは、 「無常の世にあって、本当の幸福」 を求められた
世に3種の長者ありと教えられたお釈迦さまは、今から約2600年前、
インドのカピラ城の浄飯王とマーヤー夫人のもと、4月8日に太子として誕生されている。
だから、人々の手に入れたいものはすべて、自由に手にすることができたであろうし、
小さい頃から学問も武芸も優秀で、健康にも恵まれていたから、
まさに「家の長者」「身の長者」の代表のような方だと思う。
ところが、成長するにつれ、深刻な物思いにふけられるようになっていく。
心配した王は、年頃の悩みかと案じて、19才で国一番の美女と言われた女性と結婚させられる。
さらに、春夏秋冬の季節ごとに御殿を造らせ、500人の美女をはべらせたというから大変だ。
さぞかし、人間関係のもつれが大変だったんじゃ無いかと、要らぬ心配をしてしまう。
ところが、太子の暗い表情は、一向に変わらなかったのだ。
そして、心配する両親にも太子は、一向に、その悩みを打ち明けようとはなされない。
だから、太子の心中は誰も知る由が無かった。
ついにある日、意を決した太子は、父王に手をついて、
”城を出てまことの幸福を求めさせてください” と頼まれたのだ。
お父さんの驚きは、まさに、寝耳に水のごときであろう。
「一体、何が不足でそんなことを言うのか。お前の望みは何でもかなえてやろう」
父に対して、太子は3つの願いを述べられる。
「1つは、いつまでも今の若さで年老いないことです。望みの2つは、いつも達者で病気で苦しむことのないことです。3つ目の願いは、死なない身になることです」
それを聞いた浄飯王は、
「そんなことになれるものか。無茶なことを言うものではない」
と、あきれ返って立ち去ったと言う。
かくて、夢のような一瞬の人生に、変わらない幸福は無いのか?
「健康、財産、地位、名誉、妻子、才能などに恵まれていても、やがてすべてに見捨てられる時が来る、どんな幸福も続かないではないか……」
この現実を深く知られた太子は、心からの安心も満足もできなかったのであろう。
太子の心の中を、誰も知ることはできなかった。
誰にも言えない迷いを心の奥深く抱えて送る、城での日々は、きっと悶々としていたに違いない。
「この無常の世にあって、どうしたら本当の幸福になることができるのか」
そんな思いを日々深めておられたお釈迦さまが、ついにその気持ちに耐えられず、
真夜中密かに城を抜け出し、山奥深く入られたのは、29歳2月8日であった。
結局、太子の出家を誰も、引き留まらせることができなかったということだ。
人生は「夢幻」と言うが、あっという間に平成29年は過ぎて、今年は平成30年。
過ぎてしまえば、本当にあったのか無かったのかとさえも思うような。
「夢」とは、「人生」そのものだという人もある。
十を二つ書く「草かんむり」が二十代の青年期。
「四」が四十代で壮年期。暮れゆく「夕」は老年期と言う。
とすれば、どんな家の長者も、身の長者も、「ほんのささやかな、一瞬の幸せ」。
そんなシャボン玉のような、はかない幸せでなく、
変わらない本当の幸福をお釈迦さまは求められたのだろう。
お釈迦さまの説かれた 「心の長者」とは
かくて、私たちの想像もできない厳しい修行を、6年間なされたお釈迦さまは、
35歳の12月8日、ついに仏の悟りを得られた。
そして、80歳で亡るまでの45年間、すべての人に、
はやく「心の長者」になれよ、と勧めてゆかれた教えが仏教だ。
今日、仏教の本として知られる中で、最大のベストセラーが『歎異鈔』だ。
「日本三大古典」の1つとも言われる。
『歎異鈔』なら、ご存知の読者の方もたくさんおられると思う。
戦時中、命を落とす覚悟の兵士がたくさん、心の灯りに携えたと、聞き胸が押しつぶされそうだ。
お釈迦さまの説いた「心の長者」とは、中でもその重要な、第1章冒頭に示された、
「摂取不捨の利益」を獲た人のことだ。
「『歎異鈔』は真実のにおいがする」と有名な歴史小説家・司馬遼太郎も書いた。
釈迦の説いた「心の長者」の、妙なる香りを感じ取ったのだろう。
仏教で「利益」とは、幸せのこと。
「摂取不捨」とは、ガチッとおさめ取られて、捨てられないことだから、
「心の長者」になった人は、永遠に色あせることのない「絶対の幸福」になることを言われたものだ。
「聞く1つ」で「心の長者」になるお釈迦さまの教え
この世80~100年の肉体とは比較にならぬ永遠の生命が、
どんな財宝も及ばぬ最高の宝を獲れば、「心の長者」と生かされ、
人間に生まれたことを心の底から喜ばずにおれない。
生んでくれた親の恩に、深くしみじみ涙せずにおれない「絶対の幸福」になる、と説かれる。
どんな学問も、修業も、座禅も、瞑想も要らない、「聞く1つ」だから、
大宇宙最高の宝を獲て、心の長者になるまで、仏法を聞きたい。